デザインとものづくりにおける環境が急速に変化するなかで、2013年4月、Prototyping & Design Laboratoryの名のもとに、 東京大学山中研究室が生まれました。

日本のデザイン研究及び教育は、一般的には美術の一環とされ、工学からは切り離されてきました。しかし、前の世紀の終わり頃からデザインの役割は、ただ製品の意匠や広告,パッケージなどの美的側面に関わるだけではなく、「ユーザーと人工物との関わり全てを計画し、幸福な体験を実現する技術」になりつつあります。同時に、この新しい意味でのデザインと先端技術の関わりも変化しつつあります。
かつて技術情報は、その分野の研究者以外の人に触れる機会が少ない閉じた世界のものでした。しかし、世界の様々な装置の写真や実験動画がインターネットを経由して人々の目に触れるようになった今、技術は常に大衆の視線に晒されています。こうしたなかで先端技術と社会との接点を具現化するものとしてのプロトタイピングが、重要な意味を持ちつつあります。
プロトタイピングは、技術がもたらすものへの予感を形にするための思考プロセスであり、その有効性を検証するための実験試作でもありますが、一方で広く社会に対して技術の価値を表明するショーピースの役割も果たします。よくデザインされたプロトタイプは、技術者の夢を生活者の幸福へとつなぐフィジカルコンテンツなのです。
この研究室では、ロボティクスや宇宙機などの先端技術故にデザインの手法が確立していない領域、先端製造技術がもたらす新しいものづくり、あるいは人の身体と人工物がこれまでになく密接に関わっている医療分野へのデザインの導入を試み、プロトタイプを制作し、未来の人工物のありかたを研究しています。同時にこうしたプロジェクトを通じて、技術知識と美的感覚を併せ持つ新しいタイプのデザインエンジニアを育てたいと考えています。
私たちが目指すものは、深い基礎研究領域でのプロトタイピングと、先端技術を社会化へと導くデザインを実践し、多くの研究者や企業と連携して未来を開く研究拠点です。

東京大学大学院 情報学環
東京大学生産技術研究所
教授 山中俊治


山中俊治 >>

1982年東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。1987年よりフリーのデザイナーとして独立。1991年より94年まで東京大学助教授を務める。1994年にリーディング・エッジ・デザインを設立。 2008〜12年慶應義塾大学 政策・メディア研究科教授。2013年4月より東京大学教授。
デザイナーとして腕時計から鉄道車両に至る幅広い工業製品をデザインする一方、技術者としてロボティクスや通信技術に関わる。大学では義足や感覚に訴えるロボットなど、人とものの新しい関係を研究している。
2004年毎日デザイン賞受賞、ドイツiF Design Award、グッドデザイン賞受賞多数。
2010年「tagtype Garage Kit」がニューヨーク近代美術館パーマネントコレクションに選定。近著に『デザインの骨格』(日経BP社、2011年)、『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』(白水社、2012年)。