Photography by Yukio Shimizu

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神山友輔

群生する繊細な金属線。静止状態では無機的であるが、人が手を差し伸べたとき、その印象は一変する。
それぞれのユニットは4本のバイオメタルの制御により四方に自在に動く。 静電容量センサの感度を高め一本一本を連携させることで、手の近接をより細かに判別し、全体の動きへとフィードバックする。
人がそれらの先端に触れようとすると、まるで敏感な生きものが毛を逆立てたかのように一斉にその指先に集う。それぞれが知性をもつ生物のようでもあり、全体で皮膚の一部のようにも見える、抽象的な生物らしさをトリミングした作品である。

神山友輔, 村松 充, 阪本 真, 江角一朗, 山中俊治,
慶應義塾大学SFC山中デザイン研究室

三菱電機株式会社

地面から垂直に伸びる支柱の先端では、半透明の球体が、淡い光を放ちながら漂う。光にさそわれて、その球体に人が手を近づけると、どうにか触られまいと支柱をくねらせる。
静電容量センサにより人の手の接近を感知し、また十字に配置された4本のワイヤーを牽引することで支柱をたわませる、釣り竿構造を採用している。ときに生物のみせる、対象を回避するようなふるまいを、光の遷移で表現したインタラクティブなプロトタイプである。

村松 充, 神山友輔, 江角一朗, 阪本 真, 西谷 圭, 山中俊治,
慶應義塾大学SFC山中デザイン研究室

三菱電機株式会社

現在のテレビに代わる近未来の映像情報機器をBio-likenessの観点からデザインしたプロトタイプ。3枚のディスプレイはそれぞれ独立し、人が近づくと集まったり後を追ったりするが、誰もいなくなるとまた漂うように回遊する。
顔認識により人の位置情報を入手し、最適な位置に移動して情報提示を行う。新しい情報提示方法を提案するこのディスプレイは、双方向的なメディアであることに留まらず、未来の住空間におけるデバイスと人との関係性も示唆している。

山中俊治,神山友輔, 村松 充,
慶應義塾大学SFC山中デザイン研究室

株式会社日南

生命体の中で唯一回転運動する器官「鞭毛 Flagella 」から名付けられたこのロボットは、一見柔らかいものがくねくねと身をよじらせているように見えるが、実は緩やかなカーブをもつ管状の剛体を数カ所でねじれるように回転させることで、しなやかな動きを実現している。サーボモータのシンプルな回転制御が行われているだけで、Flagellaは「なめらかに動いているように見える構造」のデザインが可能となった。
複数の管が互いにぶつからないよう制御されているため、センサの実装などはされていないにも関わらず、暗喩的に外界の認知を感じさせる。そんな彼らの知性を人は想像し、そして、つい手をのばしてしまう。

江角一朗

Dr. Manfred Hild (the Humboldt University of Berlin), Sony CSL

外力に対抗して安定姿勢を取ろうとするCSL(Cognitive Sensorimotor Loop*)の動作システムを、わかりやすいかたちで示すことを目的に製作された天秤型プロトタイプ。天秤上を転がる球に敏感に反応し、Waage は常にバランスを保とうとする。
本展では、Fuhler とApostrophにおいて、CSL システムを使用している。外観形状の違い(=外力の与え方の違い)によって、同じシステムながらも、その振る舞いが与える印象が異なる点を観察してもらいたい。

*CSL は共同研究者であるDr. Manfred Hild 氏により開発されたシステムである。

村松充,山中俊治

Dr. Manfred Hild (the Humboldt University of Berlin), Sony CSL

ゆるやかなアーチをえがく骨格と2つの回転関節にアクセントのある構造体。外力に反発するようプログラムされたモーターは、常に重力に逆らい続け、自身の体を持ち上げるために前後にもがき続ける。
全体を制御する知性を持たず、それぞれの関節は互いに通信を行わず独立して動くだけだが、外力の変化を頼りに自分の身体の使い方を模索する。ときには橋のように大きなカーブをえがき、ときには骨格の隙間をすり抜け、ときには体を丸めて転がりながら、なかなか見つからない安定姿勢を探し続ける。

江角一朗,山中俊治

Dr. Manfred Hild (the Humboldt University of Berlin), Sony CSL

外力に反発しようとする生物の反射運動をもとにしたプロトタイプ。3つの関節のモーターは、それぞれが重力に反発する。放っておくと直立姿勢を保つが、人に触れられると押し返し、先端から延びたワイヤーを引かれると全体を弓なりに反らせて対抗する。
マジックテープを備えたアンカーは、動くたびにカーペットに付着してしまう。外力に反して引きはがそうとするが、アンカーは飛んだ先で、再度付着してしまう。くっついて、はがしての繰り返しは、いつまでも終わらない。

山中俊治,田川欣哉、本間 淳

東京大学情報システム工学研究室

2001年末、日本科学未来館のオープニングに合わせて制作されたCyclopsには「睥睨する巨人」と副題が付いている。
高さ2.5mの躯体には人の脊椎に似た形状の背骨があり、その周囲には空気圧駆動の人工筋肉が配されている。頭部のカメラは来場者の動きを捕らえ、その「目」で追随する。柔らかい動きで体をひねり、人の動きを目で追うこと以外は行わないにも関わらず、人々はその瞳の奥に知性のイリュージョンを見る。
本展では、これまで実際に展示されてきたCyclopsの組み立てを行い、空気圧で直立する状態で参考出展する。山中のBio-likeness ロボット群の原点となる作品である。

山中俊治,檜垣万里子, 上野道彦, 牛込陽介, 北田荘平, 下村将基

慶應義塾大学SFC脇田研究室

Ephyraは、鋭敏な触覚器と柔軟な皮膚を持つ未来の人工物のささやかなシミュレーションである。天に向かって大きく開いた筒状の布は、ラッセル織機の製造限界に挑戦した最大級のもの。包み込まれた機械体には、空気圧で駆動するアームが放射状に配置され、自分の身体の拡張限界を確かめるかのように、布を八方に押し広げては収縮することを繰り返す。
Ephyraのアームは、感覚器を持った「触手」である。突き出された触手の先端に観察者が触れようとすると、例えば、カタツムリの触覚のように、シュッと引っ込める。
しばらくすると、おそるおそるとでも言いたげに、ゆっくりと触手を伸ばす。そしてまた、誰かが触れるまで、おだやかな収縮を繰り返す。